子育てひろば みどりのへや
川崎市麻生区にある専門職のいる子育てひろば
子育てについて

母親と父親、それぞれにとっての育児

慣れないことや予想できないことが多い育児。

夜通しの苦労も、次から次へと増える洗濯物も、どれだけ慎重深く置いても発動してしまう背中スイッチも、子どもの泣き声にイライラしてしまう余裕のなさも、

一人で抱えるには大きいものです。

(この例では主に乳児期のことを中心に思い浮かべながら書いていますが、幼児になっても、学齢期になっても、その時々の子育ての難しさというのはつきないと思います。)

子育て中の皆さん、いつもお疲れ様です。

 

皆それぞれの育児を手探りで進めながら、母親と父親、そして周りとのつながりの中で大変さを共有し合って、同じような経験をする者同士の“仲間同士”のような感覚を持つことも多いのではないでしょうか。

そうした「仲間の存在」は特に孤独になりやすい乳幼児期の育児において大切になってきます。

子育てひろばや支援センターなどでお母さん同士話すことが、心の拠り所となっている方もいらっしゃると思います。

さて。今回は、同じ家族同士の子育てのパートナーシップについて、母親と父親に起こりうる違いについてお話していきたいと思います。

母親と父親の育児におけるあり方~違いと助け合い~

育児や子育てについて語る時には、母親、父親、それぞれのあり方が別々に示されていることが多いのではないでしょうか。お母さんが育児の中心を担って、それをお父さんがどうサポートするかといったように。

育児に関心を強くもち、積極的に関わる父親も増えました。今は、ある決まった型にはまるような育児ではなく、色々な子育ての在り方があるかと思います。

一方で、社会的には、そして身体面や心理学の理論を背景に、母親と父親にどんな違いが起こりうるかの現実も踏まえておくことが役に立つことがあります。

知っていることで、歩み寄れるきっかけになることもあるからです。

母親の原初的没頭

赤ちゃんが生まれる前後から生後数週間くらいまでの期間、この時期の母親を現わすことばとして、「母親の原初的没頭」という言葉があります。これは英国の小児科医で精神分析家のドナルド・ウィニコットが見出した概念の一つです。

まだ生まれたばかりの未熟な赤ちゃんを保護するために、母親は赤ちゃんのお世話に没頭し、赤ちゃんの訴えを繊細に感じ取り、それに対応することに全身全霊を傾ける状態になるといいます。母親がまるで赤ちゃんと一心同体のような、同一化の感覚が増す時期です。

この原初的没頭の機能があるからこそ、赤ちゃんの訴えを自分のことのように感じたり、まだ自分で欲求不満を解消できない赤ちゃんのニーズをより満たしやすくなるのです。ただし、母親自身の身体的、精神的な欲求を脇に置いて赤ちゃんのお世話に没頭するという状態は、特殊な状態でもあると言えます。また、お母さん自身の負担がかかりやすい(そして自分のケアに目が向きにくい)時期であるとも言えます。

産後のガルガル期

一方こちらは専門家により提唱された概念ではありませんが、インターネット等で、子育て経験中のお母さんを中心に広まった概念です。

ガルガル期とは、産後些細なことでイライラが止まらなかったり、子どもを守ろうとして攻撃的になったり、警戒心が強くなるなど、母親の精神状態が不安定になりやすい状態のことを言います。原因は、産後のホルモンバランスの乱れによると言われ、産後すぐから3か月ほどで落ち着く人もいれば、半年、1年近く続く人もいるなど、個人差が大きいものです。

この時期、アドバイスを素直に受け取れなかったり、父親や身近な人に対してイライラが強まるといったことも起こってきます。

原初的没頭とは違う概念ですが、どちらも同じような時期に「未熟な子どもを脅威から守り育てる」ための反応が母親の中で高まるものといえるでしょう。

こうしたメカニズムがあり、産後の母親は身体的にも精神的にも不安定になりやすいと知っておくことは大事なことであると言えます。

父親の育児スキルは参加習得型~育児の門をたたく~

母親のようにフィジカル面の大きな変化を経験しない父親は、母親が原初的没頭を発揮するのとはまた違うあり方で育児に関わっていく必要があります。

自分から関心を持って育児の門を叩き、門下生として修業していくイメージに近いでしょうか。子どもができたから自然と親に「なる」訳でなく、まずは親を意識的に「する」ことで、赤ちゃんの不快のサインに気づいて対応すること、赤ちゃんへの声のかけ方、なだめ方など、そういった試行錯誤の経験が積み重なっていきます。

妊娠期から出産、産後と妻をそばで見守りながらも、実際に自分の身体で体感しないとどうしても自分ごと化できなかったという父親もいます。だからこそ、主体的に父親を「する」経験は父親にとって大切なものになるでしょう。

育休制度と育休取得率

一方で、男性が育児にもっと関わりたいと思っても、労働環境や働き方によっては思うような時間がとれないこともあります。日本の育休制度は変化してきており、原則1歳までの育児休業に加えて、夫婦両方が育休を取得することを条件にして、1歳2か月になるまで育休を延長できる制度もあります。ただし、実際に育休を取得するのは17.13%(令和4年度の育休取得率。令和3年度は13.97%)という調査結果もあります(厚生労働省:令和4年度雇用均等基本調査より)。

育休取得率は増加傾向にあるとはいえ、日本では依然として、男性が外で働き女性が家庭を守るべきという意識を持つ人も多いです。ですが使える制度は活用しながら、父親が思うペースで育児に参加でき、お世話や子どもとの関わりの試行錯誤が一緒にできる社会にもっとなっていけばいいなと感じています。

ケアをする人が精神的にケアされることも大切

お母さん同士、お父さん同士で子育ての話をするときには、「みんな大変だけど、私だけじゃなかったんだ」というように、育児の“共通する側面”が共有できてほっとすることがあります。一方で、父親と母親との間で子育ての話をするときには、自分の子どものささいな仕草、好み、苦手なことなど“個別的な側面”が共有されることが多いです。個別的な自分の子どもの状態を自分ごととして共有できる仲間の存在は、育児をする上で心の支えにもなるでしょう。

これまで、育児をする中で母親と父親に起こりうる違いについてお話してきました。

赤ちゃんをケアする親も、精神的にケアされること、心の支えを持つことが、とても大事になります。

身体面や精神面に起こる違い、特に母親は身体も心も不安定になりやすいということをふまえて、ねぎらいや暖かい言葉を相手に積極的にかけていくことが父親のできる大きなサポートの一つだと言えます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

今日もお疲れ様です。無理せず、自分を大事にお過ごしくださいね。

ABOUT ME
Kashiwagi
専門職のいる子育てひろば「みどりのへや」の代表で、臨床心理士・公認心理師。2児の母。子育て中の親と子が「自分を大切に」思える社会になるよう、居場所づくりを大事にしています。
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