お世話を引き出す赤ちゃんの力
赤ちゃんにとって「不快」は、生存が脅かされたときに生じる感覚です。お腹が空いていたり、おむつが気持ち悪かったり、眠かったり、暑かったり寒かったり…。赤ちゃんは、自分の「不快」や欲求不満を感じる力をもって生まれてくると言われています。
しかし、人間の乳児は自力で不快を取り除く力がまだ育っていません。そのため、「泣く」というサインで養育者に不快を取り除いてもらう必要があります。
特に生まれたばかりの赤ちゃんの「泣く」は動物としての生理的な反応ですが、親は赤ちゃんの訴えを聞いて何とかして不快を取り除いてあげたいとあれこれ試してみて、手をつくします。抱っこしてゆらゆら動きながらあやしたり、おむつを確認してみたり、授乳をしてみたり、着ている服を調整したり…
いろいろと試行錯誤した結果、赤ちゃんの不快が取り除かれると赤ちゃんは泣きやみます。
親はほっとして、ベッドに寝かせたり赤ちゃんがまた次に泣くまで様子を見守ります。
マザリングとは
このように、訴えに応えようとその時々の状況に合わせて判断したり試行錯誤しながらお世話することは「マザリング(mothering)」と呼ばれています(母親が子育てをすることが多いので、そう呼ばれるようになったようです)。マザリングは一方通行なものでなく、赤ちゃんのサインに対して親が守ろうと手をつくすという点で、双方向の関わり合いなのです。
マザリングは、赤ちゃんの生存を守るための身体管理のみならず、抱っこしながらなでたり、あやしたり、マザリーズと呼ばれるように赤ちゃんへ声をかける時自然にやや高めでゆっくりの声になったりと、「甘え」を満たすような心理的な関わりも同時に行っているものです。これらは、赤ちゃんの発達にとってもとても重要なものとされています。
・安心感や基本的信頼などの「関係の発達」の土台
・身体感覚の違いを感じて共有できる「認識の発達」の土台
(参考:滝川一廣『子どものための精神医学』医学書院,2017)
親がマザリングを通して繰り返しかかわることで、不快になってもそれが取り除かれるという安心感、自分が生きる世界に対する基本的信頼感をもつことへと繋がっていきます。これが「関係の発達」の土台となります。
また、自力では身体感覚を調整できない赤ちゃんの代わりに、大人が大人の身体感覚に沿ってマザリングをしていく体験を積み重ねることで、何となくの身体感覚の変化や違いを感じ分けられる力が赤ちゃんに徐々に育ってきます。これが「認識の発達」の土台となります。
「マザリング」は性別を超えてなされる「母性的なケア」
マザリングは、「心理学辞典」によれば、親や養育者などが乳児に与える母性的な愛撫や世話を意味する とされています(中島ら(編)『心理学辞典』有斐閣,1999)。
また一方で、「「オックスフォード現代英英辞典」によれば、「マザリング」とは「the act of caring for and protecting children or other people」つまり「子どもやその他の人々をケアし守る行為」という意味である。「マザリング」は性別を超えて、ケアが必要な存在を守り育てるもの、生得的に女性でないものや自然をも指す(中村佑子『マザリング 現代の母なる場所』集英社,2020)」と捉える人もいます。
これらの定義を見るとマザリングは「”母性的”な世話(ケア)」を意味するとあります。母親だけでなく父親(そして広い意味では親に限らずケアをしようとする周りの人)にも適用される概念であることが分かります。
マザリングについてはこれまで母親と赤ちゃんとの関係性を表す文献がほとんどでした。でも、実際の育児場面では父親が母性的ケアをすることもあります。おむつを替えたり、ミルクを作って授乳したり、抱っこして泣くのをなだめたり…。母親と父親、それぞれの仕方でそれぞれのマザリングによって赤ちゃんの求める訴えは何なのか、理解しようとし、日々試行錯誤しているのではないでしょうか。
母親一人ではなく父親(または子育てを支えてくれる周囲の人)もマザリングによって赤ちゃんと関わり守り育てていくチームの一員…この共同作業の意識は、母親が育児の中で感じる孤独を減らし、一人で抱え込んでしまうことを防いでいくかもしれません。
これまで、赤ちゃんと親の双方向のかかわりである「マザリング」についてお話してきました。母親と父親は、同じ作業を通じてチームとなっていきますが、一方で、役割の違いがあるとしたらどのような違いがあるのでしょうか。
次回は、母親と父親の育児における役割やあり方の違いについてお話してみようと思います。
今日もお疲れ様です。無理せず、自分を大事にお過ごしくださいね。
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