先日、子どもと関わる活動に興味がある地域の中学生に対して、乳幼児さんと関わる時のポイントについて講義の中でお伝えする機会がありました。
その中では、「パーソナルスペース」、つまり自分にとって心地いい相手との距離感を知るためのロールプレイをワークとして取り入れました。座学中心では眠たそうにしていた学生も、一人一台支給されているギガ端末(ノートパソコン)に真面目に内容を打ち込もうとしている学生も、皆ロールプレイで実際に体を動かすと表情がほぐれて和やかな空気感へと変わり、楽しく取り組めていたのではないかと思います。
心地いいパーソナルスペースを知るワーク
まず2人一組をつくり、向かい合って2~3mの距離を開けて立ちます。
(ペアを作る過程から、中学生の場合は大人とはまた違い、照れがあったりゲーム性があると盛り上がったりと面白かったです)
一方の人がもう一方の人に近づいていきます。近づかれた人(立っている人)は、「もうこれ以上近づいてほしくない」という所で手を挙げてストップサインを出します。そのサインが出たところで近づく人は止まります。ペアで順番を決めて、下記のバリエーションで交互に取り組んでいきます。
①ニコニコした顔で近づく
②むすっとした(怒ったような)顔で近づく
③深呼吸をしてから(お互い心を落ち着けてから)近づく
④走って近づく
⑤近づいていったら、急にもう一人の人(相手)がうしろを向く
<参考>みんなで支える・私が輝く「子育て支援ひろば」ボランティアのためのテキスト
恥ずかしがりながらも、皆さん真面目に取り組んでくれました。
このパーソナルスペースのワークを行う時に例として出したのが、「人見知り」の時期にいる子どもについての理解です。
「人見知り」はおおよそ生後8か月ごろの赤ちゃんに見られる、お母さんやお父さん以外の人に対して泣いたり緊張する反応が増える時期のこと。この時の赤ちゃんのパーソナルスペースを想像すると、相手と自分との距離がとても遠い状態なのではないかと思います。つまり自分のパーソナルな所に相手に入ってこられると大きく不安を感じやすい状態であるとも言えます。
上記のワークで言えば、ペアの相手が近づいてきたらすぐに拒否のサインを出しているかもしれません。
しかし、これは親密な人とそうでない人を赤ちゃんが区別できるようになったという点で、正当な発達のサインでもあるのです。
人見知りの子であっても、そうでなくても、私たち大人も、一人ひとり心地よいパーソナルスペースは違います。また、それはその時の状況によっても変わってくるものです。
例えば②のようにむすっとした相手が近づいてくる時には、①のようににこやかに相手が近づいてくる場合に比べて「近づいてほしくないな…」と思いパーソナルスペースは広がるでしょうし、④のように急に走って相手に近づくより、③のようにお互い落ち着いた状態のほうがより相手に対する安心感を持てるかもしれません。(実際、④の走って近づくに取り組んだ際に、とっさに横に避けた学生さんがいました)
⑤の「近づいていったら、急にもう一人の人(相手)が後ろを向く」は、子どもと母親の関係に置き換えると分かりやすくなります。
お母さんに見てほしくて「ママ、みてー!」と近づいて行ったのに、お母さんが急に後ろを向いてしまったような場面です。
日ごろ家事などで忙しく、ご飯を作っている時などには子どもに話しかけられても「ちょっと待ってね~」などと声をかけつつ、背を向けて家事をしている方も多いのではないでしょうか。
その時の子どもの立場に立ってみると、「ちょっと待ってね」と声はかけてくれているものの、自分に顔を向けてくれないことに寂しさを感じるかもしれません。自分の呼びかけが伝わっているのかの実感も持ちにくく、近くにいても遠く感じるような気持ちも想像できます。
家事をしている最中に子どもが急に話しかけてきたという場面でも、少し一呼吸おいて、目を合わせて、近づいて向かい合って言葉をかけるということだけでも、子どもは「受け止めてくれたんだ」という安心感を持つことができるだろうと思います。
相手の立場にたつこと、自分の心地よさを大事にすること
親子の例を挙げましたが、このワークは乳幼児の親を対象としたペアレントトレーニングでも取り入れることのある方法です。
また、親子関係だけでなく、子育て支援や対人援助職のスタッフと利用者さんの距離感、私たちの大人同士の人間関係にも当てはめて考えることができるかと思います。
誰かと関わる時は、相手の立場にたって、意識して関わってみる。
また、もし相手と関わろうとして疲れてしまうような場合には、「自分が心地いいと思う相手との距離感」を思い出して、無理をしない選択をしてみることも、自分を大切にすることに繋がります。
今回講義させていただいた学生さんにも、体験して感じてもらったことを、実際の関わりに活かしていってほしいなと感じました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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